著・中北浩爾『自民党ー「一強」の実像』

本についての説明
タイトル:『自民党ー「一強」の実像』(2017年出版)

著者:中北浩爾(なかきた こうじ)

プロフィール(中北浩爾研究室サイトから引用):

  • 一橋大学大学院社会学研究科教授
  • 東大出身、ハーバード大などで客員研究員を勤めたことも
  • 専門分野:政治学及び日本現代史、特に日本政治外交史と現代日本政治論
  • 主な著書:『自公政権とは何かー「連立」にみる強さの正体』『自民党政治の変容』『現代日本の政党デモクラシー』他

内容
こちらもサイトより引用:

自民党は結党以来38年間にわたり政権を担い、2度「下野」したが、2012年に政権に復帰。一強状態にある。その間、自民党は大きな変貌を遂げた。本書は、関係者へのインタビューや数量的なデータなどを駆使し、派閥、総裁選挙、ポスト配分、政策決定プロセス、国政選挙、友好団体、地方組織、個人後援会、理念といった多様な視角から、包括的に分析。政権復帰後の自民党の特異な強さと脆さを徹底的に明らかにする。

感想・理解
自民党の政治プロセス、派閥の実態、そして世襲議員などについても学ぶことができる素晴らしい書籍。特に1994年の政治改革や憲法改正について興味があったので、それについて解説があったことはありがたい。

簡潔に言うと、自民党の一強は投票率の低さから成り立つもの。野党が台頭してこないことも要因だが、自民党は固定票の強さのおかげで、当面は安泰のようだ。但し絶対的な強さがあると言えば、そうでもない。

現在は公明党の創価学会票や自民特有の支援団体の力で政権は維持できているが、ポピュリスト政党や野党共闘が本格的に実現すれば揺らぐ可能性はある。その証拠に、小泉政権後の2009年には民主党政権が誕生し、自民は下野に回っている。その要因の一つは、小泉首相の派閥分断、団体に頼らない無派閥票を狙った様々な動きと考えられる。

その中でも大きかったのが郵政民営化を成し遂げるべく、「全特」こと全国特別郵便局長会の反対を押し切っての解散総選挙とされる。これらの動きにより、自民党は支持基盤の大きな一部であった友好団体を少なからず失うこととなる。

さらに、1994年の選挙制度改革による小選挙区比例代表並立制の導入により、党・総裁主体の選挙戦が行われるようになる。結果的に自民党の固定票の低下による政権交代が起きた。現在の安倍総裁の下、これら友好団体との緊密な関係が修復され、派閥間の調整も行われ、党の結束を固めようという方針が取られている。小泉政権下での反対勢力排除とは違い、上手くバランスをとる安倍政権の方針は昔の利益誘導型政治の復活を仄めかす。

まとめると、自民党の強さは

  • 固定票の強さ
  • 公明党との連携
  • 野党の弱さ

によって成り立つ。

これらの条件が崩れた時、再び政権交代が起きる可能性は十二分に考えられると言うのが筆者の考えだ。

そして最後に、心配される右翼化についてだが、これは当時の民主党政権との差別化を図るうちに生まれたと野田聖子は言う。

安倍政権と小泉政権では目的が違うぶん、政策の右・左へのより具合も異なった。

  • 安倍晋三の敵は民主党であり、下野時代を支えていたのは右寄りの団体
  • 小泉純一郎の敵は党内で利益誘導型・金権政治の代表格とされていた経世会(田中派)

よって、安倍晋三は政策を右寄りにし、小泉純一郎は党内プロセスを「破壊」していった。

結局、党の調整なしでは中長期的運営が厳しくなるのも確かである。

どちらが民意を捉えているかは定かではないが、支持基盤を頑丈にしつつ、国民を熱狂させられる政治家が出てきた党が今後の日本に必要だと思わせる本であった。

印象に残った一文
「自民党は過去も現在も党組織が強くなく、それを個人後援会や友好団体が機能的に代替してきた。」(第4章、170ページより)

なぜ会社員や学校の職員のような一般的な仕事出身の政治家が少ないのか。理由はここにあるようだ。もちろん、選挙はお金がかかるし仕事も辞めないといけないマイナスがあるが、結局固定票の有無がものを言う。

自民党は候補者選びの際、地方政治家、議員秘書、団体・政党職員、官僚などいわゆる地盤・看板・鞄(三バン)を兼ね備えている人を選ぶ傾向がある。

党組織が強くない場合、一般的な職業の人間が当選する確率は固定票がある地方政治家などより低い。そのため、必然的に固定票を優先し、確実に勝てる人間が候補となる。

言い換えれば、固定票が減少している今、自民党の一強は盤石と言えない。これからは無党派層を意識した候補者選びも増えるかもしれない。今後当選する議員の前職業をチェックすることも大事だろう。

写真:TTTNIS(2012年自由民主党総裁選挙街頭演説会・長野市)

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