著・増田寛也『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』

本について

タイトル:『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』

著者:増田寛也(ますだ ひろや)

プロフィール:

  • 日本郵政取締役代表執行役社長
  • 東京大学法学部出身、岩手県知事 (1995~2007)・総務大臣 (2007~2008) を歴任
  • 主な著書:『地方消滅 創生戦略篇』『「東北」共同体からの再生』『地域主権の近未来図』

内容

このままでは896の自治体が消滅しかねない――。
減少を続ける若年女性人口の予測から導き出された衝撃のデータである。
若者が子育て環境の悪い東京圏へ移動し続けた結果、日本は人口減少社会に突入した。
多くの地方では、すでに高齢者すら減り始め、大都市では高齢者が激増してゆく。
豊富なデータをもとに日本の未来図を描き出し、地方に人々がとどまり、希望どおりに子どもを持てる社会へ変わるための戦略を考える。

感想・理解

かなりの衝撃を受けた内容。人口減少・少子高齢化はよく聞く話だが、まさか地方のこんなに多くの自治体が消滅の危機に瀕しているとは思いもしなかった。都会育ちからしてみたら、やはり他人事のように思えていたのだろう。この本を読み、日本全体の問題であることが浮き彫りになる

まず基本的な人口減少の構図はこうだ:

  1. 地方から若者(特に女性)が東京へ
  2. 東京の出生率は全国最低(経済的な理由や自分の生活で精いっぱいなため、子供が欲しいと思えない)で、流入があるたびに地方の出生率も下がる
    同時に、人口減少が進みながら都市の過密度も増す
  3. このトレンドが続き、日本全体の人口減少がより一層早まる
    いくら地方の出生率が高くても、そこに出産適齢期(20~39歳)がいなければ人口は増えないどころか減り続ける

つまり、この悪循環を断つには出生率を上げるのもそうだが、女性が地方に残るようにしなければならない。出生率がいくら上がってもそこに女性がいなければ子供は生まれず、人口減少に歯止めが効かない。それだけ女性にとって出産・育児がしやすく、同時にキャリアを進める機会が必要ということだと思う。

ここからは驚いた・勉強になったポイントを紹介。

① 過密化だけでなく「高齢化する」都市圏

東京圏は2040年までに高齢化率が35%の超高齢者社会になる可能性が高いとされている。生産年齢人口(15~65歳)は6割まで減少し、高齢者を支える医師・看護師・介護士不足が重なり、地方からの人材流入が起きる。そうなれば、地方をかろうじて支えていた人材がいなくなり、地方が回らなくなってしまう恐れがある。

高齢化が進む中、働けて働きたい高齢者も多い。そういう人を積極的に雇用できる体制をつくることも大事だろう。いわゆる「生涯現役社会」というコンセプトだ。抜本的な高齢者という枠組みの見直しも検討する余地はあるかもしれない。

② 896の消滅可能性都市

ある推計によると、2010年~2040年までの間に「20~39歳の女性人口」が5割以下に減少する市町村区は896自治体(全体の49.8%)あるという。つまり、約半数の自治体がこのまま消滅する可能性がある。

その中でも人口が1万人を切る市町村は523自治体と、全体の29%もの自治体が消滅の可能性が最も高い部類に入った。

一方、東京はと言うと、人口減少が進むが流入も多いため1割減ほどで済むと言う。いわゆる「極点社会」「(地方の若者を吸い込む)人口のブラックホール」と言われる所以だ。それに加え、これから高齢者が増えると予測される東京は予算をそちらに回し、出生率を上げる政策には予算を回せない可能性がある。そうなればより一層人口減少が進み、事態が改善されない時期が続く。

③ 結婚・出産・子育て支援

出生率の低さはどこに原因があるのか。理由は子供が欲しくないのではなく、経済的に困難だからだ。その結果、未婚化や晩婚化が進む。仮に子供ができたとしても、2人目・3人目が困難だと思う親は少なくないと言う。理由としては子育ての環境が整っていないことや男性の育児参加の低さが指摘される。

日本は他の先進国に比べると確かに子育て(特に働いている場合)環境や男性の育児参加の少なさがニュースに取り上げられるほど。ここを政策でカバーしなければ出生率も上がってこない。

非正規雇用が若者(20~30代)の間でかなり多いのも問題だ。本に登場するデータによると、この年代の非正規雇用者の未婚率が正規雇用者より2倍以上高い。つまり、経済的にある程度余裕があり、環境が整わなければ、人口減少を食い止めることはできない。

印象に残った一文

「日本再興戦略では、指導的優位を占める女性の割合を2020年までに少なくとも30%程度にすることが目標として掲げられている。」(第4章、p.87)

これを管理職についている女性と捉えると、明らかに達成していないことがわかる。2014年に初版本が出たこの増田氏の本だが、それから6年大して変わっていないことが衝撃だ。19日にでた日経の記事によると、女性管理職は現時点で8%しかおらず、30%とという目標には程遠いことがわかる。

同記事に記されたアンケート調査によれば、実に6割以上の女性が管理職につくには子育て支援の拡充が最も必要と答えた。つまり現時点では支援のなさにより競争から脱落し、管理職につけていないという実態が浮かんでくる。

この本でも何度も書かれていることだが、女性が仕事と子育てを両立できる環境が整わなければ、出生率は上がらず、人口減少は改善されない。筆者は男だが、できることはするべきだと思う。男性ならば子育てを積極的に手伝ったりして女性の負担を軽減する必要がある。これからの日本のことを考えれば、それぐらいはしなくてはならない。

同時に、地方を活性化させ、東京への流入を阻止する必要性もある。これから打ち出される政策が、今後の日本の将来を決める。

写真:Morio (CC BY-SA 3.0)

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