『沖縄問題ーリアリズムの視点から』

本について

タイトル:『沖縄問題ーリアリズムの視点から』

著者(複数):

高良倉吉(たから くらよし)

  • 沖縄県生まれ・2013年から1年8ヶ月、仲井真弘多県政の副知事
  • 愛知教育大学出身、沖縄史料編集所専門員・琉球大学法学部教授などを歴任
  • 専門分野:琉球史
  • 主な著書:『琉球の時代』『琉球王国の構造』『琉球王国』

川上好久(かわかみ よしひさ)

  • 沖縄県生まれ・大阪大学経済学部卒業
  • 県庁職員から仲井真県政で副知事を務めた

小橋川健二(こばしがわ けんじ)

  • 沖縄県生まれ・大阪大学法学部卒業
  • 県庁で総務部長などを歴任

當銘健一郎(とうめ けんいちろう)

  • 大分県生まれ・東京工業大学大学院修了
  • 沖縄県庁で土木建築部長などを歴任

又吉進(またよし すすむ)

  • 沖縄県生まれ・琉球大学法文学部卒業
  • 県庁で知事公室長などを歴任

内容

米軍海兵隊の普天間飛行場の移設をめぐる国と沖縄県の対立は根深い。保守と革新の単純化した構図でとらえられることの多い沖縄問題をどう考えればよいのか。

本書では琉球処分、沖縄戦から米国統治、そして日本復帰という近代以降の歴史を踏まえ、特に沖縄県の行政に注目し、経済振興と米軍基地問題という二大課題への取り組みを追う。理想と現実のはざまで苦闘しつつも、リアリズムに徹する沖縄の論理を示す。

感想・理解

沖縄県庁で実務を行なっていた方々による沖縄についての本。メディアの基地問題報道がいかに浅いかがわかった。

基地を沖縄からなくす、あるいは県外移設を行う。それがどれだけ難しいことであり、現実味がないか、思い知らされた。

そして仲井真県政がいかに苦悩と戦い、辺野古埋め立てを容認したかがうかがえた。仲井真知事は県外移設を目標にしながら、県民の安全確保を第一に考え、辺野古移設が最善の策であると判断した。

それがどれだけ批判され、県民に問題視されるかはわかっていたはずだ。それでもそう判断したのは、まさに現実を直視し、客観的に考えた結果であろう。この本はその内情を実務に徹した公務員の視点から説明している。

さらに、今まであまり考えてこなかった沖縄の歴史や基地に関しての考えを知ることができた。これは日本国民である以上、理解するべき問題であると改めて感じた。

ここからは読んでいてなるほどと思ったり、興味深いと思ったポイントを紹介する。

ポイント①:沖縄史

本書はかなり具体的に沖縄史を紹介している。冒頭のセクションは時代を通し、いかに沖縄が不平等な扱いをされてきた反面、日本の一部であることに対し好意を持っていることがわかる。

沖縄史は5つの時代に分けることができる。

  1. 先史時代(日本の縄文・弥生・古墳・奈良・平安時代)
  2. 古琉球(鎌倉・南北・室町・戦国・安土桃山)
    – 統一権力が誕生・急速な政治化が進む
    – 1429年に琉球王国が誕生中国の明朝の皇帝に従う
  3. 近世琉球(江戸時代〜明治初期)
    – 1609年、島津侵入事件(徳川による沖縄侵略)勃発、薩摩領に入る
    – 以後は中国と日本の間で王国のアイデンティティを維持
    – ペリー来航・神奈川条約締結後、沖縄を本土に組み込む計画浮上琉球処分
    – 首里城を明け渡してもらうべく、明治政府は武力行使もちらつかせた
  4. 近代沖縄
    – 中国・琉球共に反対するも、日清戦争(1894~95)の日本勝利を機に反対派は鎮圧され、本格的に組み込みプランが開始
    – 王国時代原則禁止されていた移動が解禁され、本土や国外に移る人間が増えた
    人口の約25%が沖縄戦で亡くなった
  5. 戦後・現代沖縄
    – トカラ・奄美・沖縄がアメリカによって日本から切り離された
    – 米軍は強引な土地収用で基地を増やしていった

このような歴史認識から、沖縄には2つの見方が存在する。日本は沖縄を侵略したと言う説と、民族の統一であるという説だ。

さらに、日本の一部になっていこう、不当な扱いを受けてきた傾向がある。データで見ると、県民所得が全国平均を下回っていることがわかる。それも、日本が経済的に成長していく中、沖縄県民の所得が減っている

ただ、政府が何もしていないかといえばそうでもない。

ポイント②:沖縄振興計画

沖縄の経済発展を支えるべく、日本政府は様々な制度を設けている。これらは他県との格差を是正するために設けられた経緯がある。

沖縄は振興特別措置法、跡地利用促進法、一括計上、高率補助、一括交付金、経済特区、税制など振興を推進する強力なエンジンを政府により措置されてる

特に2012年のソフト・ハード両方の一括交付金が始まったのは大きかった。

沖縄振興一括交付金として1575億円が計上され、振興のためならソフト交付金は何にでも使えるようになった(今までは紐付き)。今まで難しかった子育て支援や離島の介護サービス充実や教育などにも予算を回すことが可能となった。

ポイント③:県財政

一般的に県財政の歳入(収入)は国庫支出金・地方交付税・地方税・地方債で構成される。沖縄に関しては、2014年の予算を見ると、国庫支出金が高く、地方税が低い。言い換えると、自主財源の地方税が低く、外部資金に大きく依存している

これは沖縄だけでなく、辺境県が抱える共通の問題だ。沖縄に関していえば、以下の収入源がある。

① 国庫支出金

この補助金は国から、沖縄の振興に必要な額と、財政上の都合から必要な額が、要望に基づき配られる。

主に事務事業の奨励や国・地方自治体の役割分担に応じて決まる。沖縄の場合、財政負担を軽減するために復帰後(1972年以降)、高い補助率が措置されている

実は、国庫補助金をもらう際、他県は各省庁と話し合いをするが、沖縄は国が確保してくれる。直接支援を確保できるようにした、プロセスが違うだけで、別途さらにもらっている訳ではない(沖縄の遅れを取り戻すために国主体でおこなっている)。

② 地方交付税

これは地方団体が平等に行政サービスを維持できるようにする国からの資金提供が行われる制度。客観的な指標を元に交付されるため、政治的な意図はない(沖縄だけ多くもらうことはない)。

③ 地方債

沖縄の実質公債費比率(返済能力)は12%全国平均の14%より低い。つまり、債務に割く財源(返済金)を抑えることで政策に使える。

④ 基地関連収入

沖縄県は経済が大きくなるにつれ基地関連収入の割合が少なくなっている。1972年の復帰時点では約16%だったのが、2013年には約5%となっている。

具体的な数字を見ると、軍関係受取額は2088億円で、観光業の4479億円の半分ほどとなっている。つまり、基地がなくては経済が成り立たないとは言えなくなっている

ポイント④:米軍基地・移設計画

沖縄の県土面積の約10%を米軍施設が占める(海兵隊がその約75%を占めている)。

沖縄は、米軍施設が振興の大きな障害となっており、国には過重な基地負担をなくす努力をしてもらう必要があると主張している。つまり、基地返還は負担軽減だけでなく、経済的発展にも役立つ。これらをまとめたのが沖縄21世紀ビジョンである。

また、返還に関しては、移設を条件にするものと条件がないものがある。最も長くもめている普天間は県内移設を条件に返還が認められた経緯がある。

実際、様々な返還・移設計画が策定されきたが、2015年までに返還された面積は約5700ヘクタール(全体の20%)に止まっている。それはなぜか。

最も大きな要因は移設の条件と政治的状況の変化と筆者たちは言う。

そもそも、返還まで半世紀を超えることもありえる(調査が3~4年、埋め立て工事に10年)。その間に、関係する自治体の首長が代わり、計画が政治姿勢に大きく左右されることが多い。

それに、移設が完了しても、収益が見込めるまでさらに時間がかかる。

例えば、那覇新都心を開発したとき、県は使用収益開始から15~20年で支出を取り返した(税収が超えた)。1973年に返還が決まってから1987年までに全面返還された。調査や原状回復の後、事業開始は1992年となった。開発の土地区画整理事業が約500億円かかったものの、かなりスピーディーな事業・再開発となった。

これは那覇新都心の立地が良かったからであり、他の施設の跡地ならさらに時間を要する場合がある。とにかく、時間と予算がかかるので、返還が決まって終わりではないのだ。その後の再開発計画も綿密に練る必要があるわけだ。

ポイント⑤:普天間移設の総括

普天間移設のタイムラインは以下の通り:

  • 1996:沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告によって、移設条件つきの全面返還が合意された(期間は5~7年)
  • 2005:キャンプ・シュワブの海岸線の区域と隣接する大浦湾の水域を結ぶL字型の場所に代替施設を設置することで合意
  • 2006:2007年までに全面返還を検討し、V字型の2本の滑走路を設置するという修正が加えられた
  • 2013年3月:辺野古崎の公有水面埋め立て承認申請書が県に提出され、4月には計画書が提出された(嘉手納より南の施設を統合し、2022年度以降に返還)
  • 2013年12月:仲井真弘多県知事は沖縄防衛局の埋め立て申請を承認
    仲井真知事は日米合意を尊重しつつ、県外への移転・県民の安全を保障することを優先した。結果的に、県民の安全を第一に考え、県外移設を諦める形となった(譲歩した)。さらに、行政の判断は法律上適正な埋立であることを主張した。つまり政治姿勢に左右されず、できることを全てやった上で、行政上、最善の策だと判断したのだ。
  • 2014年に当選した翁長雄志知事が翌年に承認を取り消した

普天間移設に関しては訴訟も提起されており、未だに沖縄県からの猛烈な反対が続いている。騒音や環境への悪影響などに加え、米軍に対する不信感なども募り、反対が長らく続いている。さらに、市街地の真ん中にあって、人命に関わるとされている。

基地がある宜野湾市は約1980ヘクタールあり、その25%を普天間飛行場が占める。飛行場の面積は約480ヘクタールで、民有地が90%を占め、国有地は7.5%。軍施設は基本旧日本軍の施設跡にあるため、国有地である確率が高く、跡地利用も国主導となることが多い。

沖縄の場合は何千人も地権者がいるため、跡地利用で合意するのが困難。跡地利用に関しては、そもそも跡地利用計画そのものがまだ作成されていない(2016年時点)。それは返還のめどが立たない以上計画を立てるタイミングがないからだ。

しかし、現時点で言えることは、立地などを考えると(那覇新都心のようにアクセスがいい場所ではない)、まずは公共交通システムを構築せねばならない。1000億円以上は必要になるだろうし、コスト回収まで20~25年はかかるとされている。

ポイント⑥:基地問題の理想と現実

本書の著者たちの共通認識は面積で言えば対して進歩がないと言えるが、米軍再編計画・返還計画は少なくとも唯一県民の意思に沿った縮小計画であるということ。

アジアにおいての米海兵隊の抑止力は日米両政府によって認められ、認識が変わることがない以上、SACO合意などによる返還・再編計画が見直されることはない。

ならば、現実的な落としどころを探り、できることを全てやるのが県庁の仕事である。結果は出ている。副知事・宜野湾副市長と関係省庁の局長クラスによる作業部会が設置され、2014年8月に山口県岩国市が普天間に配備されている空中給油機(KC130)15機を海兵隊岩国飛行場に前倒しして受け入れてもらえた。これは少なからず沖縄の負担軽減につながり、膠着し続けた状態を打破した瞬間であった。

著者たちは、このような「小さい勝利」を重ね、できるだけ負担を減らし、本土との格差をなくす努力をする必要があると訴えているように思える。基地ゼロが理想ではあるものの、それが現実的ではない以上、次にいい負担軽減・安全確保を最優先に考える

それこそが沖縄、そして日本政府がともに目指せるゴールなのではないか。

印象に残った一文

「沖縄県民の願いは最終的に米軍基地のない状態を実現し、経済的自立を達成して平和に暮らすこと」(第5章、160ページより)

この一文には、沖縄の理想と現実が見え隠れしている。理想は基地のない状態でありながら、それを達成する難しさを痛感し、苦悩する様。理想は現実から程遠い。

沖縄県民の思いを完全に理解することはできない。なにせ、経験していないことは想像するしかないから。しかし、問題を理解し、沖縄だけの問題ではなく、日本の安全保障に関わる問題として捉えることはできる。

本当に沖縄にこれほどの米軍施設が必要なのか?県外移設が嫌なだけではないか?現状維持が最も簡単な答えで、考えることをやめていないか?

これらの疑問を持ち、これからも沖縄の基地問題について考える必要がある。

この本を読み、沖縄についていかに無知であったか、思い知らされた。これからさらに理解を深めるのも重要だと感じた。

写真:U.S. Air Force (パブリック・ドメイン)

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