6月18日は都知事選の告示日(都民に候補者を発表)。これから17日間、過去最多の22人の候補による選挙戦が繰り広げられる。
その先駆けとして行われたのが17日の共同記者会見。現職の小池百合子氏を含む5名の候補が1時間ほどの記者会見をおこなった。記者クラブからの質問に対して複数の候補が答えるという、従来とは異なるスタイルの会見となった。
ほんのわずかではあったが、これからどういうメッセージを訴えていくのかが垣間見えた。
今日の投稿はその共同記者会見をできるだけ簡潔にまとめたものとなっている。そのまとめの後には筆者の私見(候補者の印象)も加えてみた。
参加した候補者
このオンライン会見の主催者は日本記者クラブ。
参加者は以下のとおり:
- 小池百合子氏(こいけ ゆりこ)
現職・東京都知事 - 宇都宮健児氏(うつのみや けんじ)
元日弁連会長、立憲・共産・社民が支援 - 小野泰輔氏(おの たいすけ)
元熊本県副知事、維新の会が推薦 - 山本太郎氏(やまもと たろう)
れいわ新撰組・代表 - 立花孝志氏(たちばな たかし)
NHKから国民を守る党・党首
各候補からの質問
① 前回の都知事選で公約として掲げた「7つのゼロ」はどの程度達成できたと考えている?
小野氏から小池氏への質問
- 「人に焦点を当てた」政策
- 4年間で8466人いた待機児童を2300人に減らした
- 保育所に入所できる数も毎年1万5000人増やした(3年で4万5000人)
- 2030年を目標にしたのであって、4年で終わると思っていない
② 立場が弱い都民を救うには財源が必要だが、どういう考えがあるのか?
小池氏から宇都宮氏
- 3兆円ほど財源があるが、コロナ対策に使うには条例を変える必要がある
- 予算の組み替えを考えている(本当に使う必要があるか)
- 例えば道路整備は不要不急のものなのか
③ 4年前に「満員電車ゼロ」を掲げたわけだが、現実にするための政策はあるのか?
立花氏から小池氏
- 立花氏:ピーク時の運賃アップなどを考えているが小池氏はどうか
- 定期が多く使われているため運賃をあげても意味がない
- 働き方を変え(テレワークなど)、電車を使う頻度を下げれるようにしたい
④ 報道ではオリンピックの延期による追加費用は3000億から6000億円とされているが、都はいくらほど負担するつもりなのか?
山本氏から小池氏
- 3つのことを重視:安全安心な大会、費用を最小にすること、大会を簡素化(むだをなくす)
- 具体的な数字はまだ決まっていない
⑤ オリンピック開催にこだわったことでコロナ対応に遅れが生じたのでは?東京アラート解除後に感染者が増えているが、基準についてはどう思うか?カジノ誘致についての考えは?
宇都宮氏から小池氏
- カジノ
- メリットは観光客が増えること
- 総合的な検討が必要になる
- コロナ対応に遅れはありませんでした
- オリンピックとコロナ対応は全く別に考えていた
公約・政策についての質問
① 小池都政をどう評価・採点するか?
小池氏
- 都民が評価する(選挙結果が採点になる)
宇都宮氏ー30点
- 待機児童に関しては努力をしているが、豊洲の移転問題やオリンピックの経費の増加を考えるとこれぐらいが妥当
小野氏ー30点
- 2016年の公約である「7つのゼロ」のうち「殺処分ゼロ」しか達成できていない
- 豊洲移転が遅れて売り上げに影響がでた
- 都債は減っているが、財政調整基金(余裕がある年にプールしたお金を足りない年に回す制度)を95%カットしたので将来の財政に不安が残る
山本氏ー採点不能
- 待機児童ゼロには潜在的(隠れ)待機児童は含まれているのか(1万8000人を超えているという話もある)
- 「電柱ゼロ」(都道は2%増)や「殺処分ゼロ」も達成されていないのでは
立花氏ー15点
- 「7つのゼロ」のうち1つしか達成できていない
- 「満員電車ゼロ」は時間がかからないはず
- テレワークを増やすと言いながら都知事自身が出勤している(自分もテレワークを)
② 4年前の東京大改革の1つとして情報公開の徹底を掲げたが、豊洲やカジノ誘致の件で情報公開がなされていないのはなぜか?情報公開はどうあるべきで、小池都政は十分な公開をしたのか?
小池氏
- 4年前に都政の「見える化」を訴えた
- 情報はネット上でダウンロードできるようになった
- ついでに手数料はなくなりコピー代も10円にした
- カジノ誘致の情報公開
- 「のり弁」(多くの情報が黒塗りされ非公開であること)ではない
- 国の了解を得ていないので公開できない情報もある
- 豊洲移転
- 専門家の判断の上、移転を決めた
- 必要な情報は公開してきた
宇都宮氏
- 情報公開は民主主義の通貨
- 公文書を改ざんしたり破棄すれば公開した意味がない
- カジノの件は国と交渉して公開するべき
- 都の「見える化」をしても自分の問題は不透明なまま
小野氏
- 東京が率先して情報公開をするべき
- 熊本県庁でも徹底的に公開していた
- デジタル社会なのでデータを大量に保存できる。破棄する必要もないから公開できないことはない
山本氏
- 豊洲移転
- 基本方針の決定プロセスの記録がないことに対しての都知事の答えがちゃんとしていない
- スーパーシティー計画も都民の知らないところで勝手に進めそうでよくない
立花氏
- N国は透明化をしている
- 政治家は隠したがるがそれは変えないといけない
③「築地を残す」と発言していたが、それは今も変わらないのか?
小池氏
- 築地というブランドを残し東京の魅力の一部としたい
- 市場機能を残すかについては市場の人に任せたい
④ リゾート型統合施設・カジノ誘致の賛否についてはどう思っているか?
小池氏
- 旅行客が増えるので経済にはいい(まさに「稼ぐ東京」)
- 依存症の問題もあるが、慎重に議論を重ね国の対応を見ながら検討したい
宇都宮氏
- カジノがなくても文化・伝統があるため旅行客は年々増えている
- 政治家は道徳・倫理を考えるべきなので、カジノで経済成長を促すのはどうかと思う
- 多重債務問題に取り組んできた弁護士としては反対
- 韓国にあるカジノで唯一黒字経営なのは韓国人しか入れないカジノ(デメリットが多い)
小野氏
- カジノ誘致には賛成している
- 経済には良いし都市の魅力が増すのでインバウンドも増える
- 中毒は問題であると考えている
- 選定過程は大事なので、明快かつ透明なプロセスにするべき
山本氏
- はっきりとやらないと言うべき
- 誰かの負けの上に利益が生じるのがギャンブルの本質
- 日本人のお金が海外の企業に搾り取られるようなもの
立花氏
- パチンコ、競馬、競輪などと一緒に扱うべきではない
- カジノはお金持ちの集まる場所なので、他のように依存はひどくならない
- 資産家を国内につなぎ止めるのに必要
⑤ カイロ大学の卒業証書の件はメディアに公開しているが都議会に提出しないのはなぜ?
小池氏
- 議院運営委員会(審議するべき議題かどうかなどを判断する委員会)で否決されたと聞いている
- すでにメディアで公開しているから必要ない
- 都知事選の議論で卒業証書についてばかり話すのはもったいない
⑥ 都民1人1人に10万円を配ると言っていたが、ベーシックインカムということか?財源は?
山本氏
- 保証なき自粛が必要になる時がいずれ来る
- どんな家庭でもお金が必要になるから10万円を給付するべき
- 休みたくても休めない人には危険手当もあげるべき
- 毎月2910億円ほどかかるが、国がやらない以上都がやるべき
- 財源は都債(都が公共事業に必要なお金を調達するために発行する債券)を発行してでもつくる
⑦ 都債の規模は?実現性はどうか?
山本氏
- 国がお金を出さないならば都の資金でやるしかない
- 現在の資金ではできないので地方債を発行し資金調達すべき
- 東京なら他の県より圧倒的な借りる力がある
- 実質公債費比率(収入から引いたローン・借りた額)は1.5(全国平均は10.9)
- 収入が多いぶん借りる量も増やすことができる
- 20兆円調達しても総務大臣の許可が必要な18%にならない
- 東京の信頼があれば金融機関で都債を買ってもらえる
小池氏
- 山本氏は地方財政法を理解しているのか?
- 地方債を発行するには条件がある
- 発行する目的がないといけない
- 20兆円借りても返済できるかが重要(現実味がない)
- 年間1.5兆円の返済と考えて、一般会計(使えるお金)が7兆円なら毎年そこから1.5兆円引かれるのは痛い(他のコストをカットしないといけない)
⑧ 社会の弱者を助けるにはどういう政策が必要?山本氏との違いは?
宇都宮氏
- 雇用、住まい、営業は守るべき
- 保証、企業の雇い止めや解雇を防ぎ、住まいも提供するべき(家賃補助制度などで)
- PCR・抗原・抗体検査を積極的に実施して感染者を隔離するべき
⑨ 副知事には誰を選ぶか?
小池氏
- 現職の4名をそのまま
宇都宮氏
- 現時点では考えていない
- 女性の副知事はいるべきだと思う
小野氏
- 都庁の職員に信頼されている人
- 都市計画の専門家(コロナ後の東京を一緒に考えてくれる人)
- ITに強い人
山本氏
- 宇都宮氏と小野氏を副知事にしたい
- 障害当事者なども入れたい
立花氏
- 堀江貴文氏を副知事にしたい
新型コロナに関しての質問
① 当面のコロナ対応はどうするか?都知事は「自粛から自衛に入った」と発言したが、それは対応が自己責任ということか?第2波が訪れた時、休業要請した上で協力金を払うのか?
小池氏
- 災害の際には「自助、共助、公助」(自分で守る・地域で協力して・都)があるが、都は公助を続けている
- これまで1店舗なら50万円、2店舗以上なら100万円の協力金を払ってきた
- その第2弾は16日に始まっている
- 自衛というのは各個人・事業の努力のことをさしていた
- これからも状況に応じて助けていきたい
②「いき過ぎた自粛」と発言していたが、今第2波が訪れれば防げる?
立花氏
- 防げないだろう
- 感染者数より死者数を見て対策をするべき
- 40歳以下は力士以外死んだ人がいないのに対し、60歳以上の高齢者は多くが亡くなっているーそういう世代のみを対象に自粛を要請するべき
③ コロナ対策をしながら経済をどう回す?
小野氏
- どこで感染が拡大しているかデータを見て予測する
- そのデータに合わせて自粛を要請する
- 本当にリスクがあるところを探し出せば全地域で自粛する必要がなくなる
④ 東京版のCDCを創立するのか?中国に防護服を送った理由は?
小池氏
- CDCのような感染症を専門に扱う拠点を作りたいと言ったまで
- 衛生資材の備蓄はしている
- タイミングが合い、古いものを中国に送り、新しい資材を備蓄した
オリンピック・パラリンピックに関しての質問
① オリンピック開催に対する基本姿勢は?追加の費用負担についてはどう思うか?
小池氏
- アスリートのことを考えると、延長はこれ以上できない
- 中止は何としても避けたい
- 簡素化され、費用の縮減、そして国民の理解を得られる大会にしたい
- 安全・衛生面の課題は多いが、新たな形のオリンピックにしたい
宇都宮氏
- 感染症の専門家(国内外)が開催は困難と言えばやらない
- 中止で浮いた予算はコロナ被害者の支援にあてる
- 世界各国から人が来るので世界の感染レベルも考えないといけない
小野氏
- 2024年まで延期できるよう努力をする
- 2024年のホスト国であるフランスの準備が滞っていると聞いているので、交渉の余地はあると思う
- 1年後どうなっているかわからない以上来年開催するのは難しい
- 宇都宮氏同様、他国の感染状況を考えると難しいのでは
山本氏
- 安全を保証できない以上、中止にするべき
- ずらしていく(延期)ことができるかわからない
- ワクチンがない中で開催は難しい(特に海外から人が来ればなおさら)
- 早めに判断してIOCに中止を申し入れるべき
- パンデミックは日本の責任ではないから、違約金を払わずにすむ?
立花氏
- 2年後の北京・冬季オリンピックか4年後のパリをずらしてもらうしかない
- IOCに判断を任せて費用も払わせるべき
締めくくりの発言
① コロナ後の東京をどうしたいか?
小池氏
- 自己達成・実現ができる東京を強化していきたい
- 世界経済の中心なので、しっかりした成長戦略を練っていきたい
- 5Gやオンラインの事業・診療なども進めていきたい
- 稼ぐ東京でありながら1人1人の命と健康を考え、未来への希望を持てる東京にしたい
宇都宮氏
- これまでの日本社会は経済効率を優先する自己責任社会だった
- 今回その社会の弱みが見えたので、国民の命・暮らし・人権を重視する社会にしたい
- この転換の先頭に東京がいるべき
小野氏
- 2016年の選挙はキャッチフレーズが踊っていた
- 熊本で行政の実績は積んできた
- 誰が真摯に結果を出す、実行力のある候補か考えてほしい
山本氏
- 今目の前の手当をすることが一番大事
- 地方債で東京の人々を底上げしたい
- 小池氏は先の世代の負担が大きくなると言ったが、今の世代が倒れれば先の世代の負担は大きくなる
立花氏
- 口だけじゃなくて行動で示さなければならない
- N国を政党にした実行力が最大のアピールポイント
各候補に抱いた印象
公約などを一切読まずに会見のみで判断。これから公約や演説を見て、どれだけこの印象が変わるかあとで比べるのも面白いだろう。
小池氏
- 挑戦を受けて立つ現職としての余裕を感じた
- これからはどれだけ都政で達成したことをアピールできるかが重要(「7つのゼロ」を批判されるのはわかりきっていること)になるだろう
宇都宮氏
- 弁護士ならではの観点から物事を捉えている
- 経済政策よりも生活面に重きをおいている分、どう経済を回すつもりなのかが注目
小野氏
- データを使うとかITに力を入れるなど、今の時代にあった感じがする政策を考えている
- あまり知られていない分、アピールがしやすいが、どれだけ他との違いを見せられるかが最も重要になる
山本氏
- ポピュリスト感がすごい、国民が欲しそうなことを全て提言している候補
- 最も具体的な政策を提示しているが、この先それらが実現可能かを有権者に訴えなければならない
立花氏
- 聞いていてなかなか面白かったが、具体的にどう実現するかがわからなかった
- この先は幅広い分野でどれだけ具体的な策を示せるかが注目
これから本格的な選挙戦に入っていく。これから17日間、各候補が様々な活動を通して有権者にアピールをする。これらをできるだけまとめてこのサイトで掲載していきたいと思っている。
どういう政策提言をしているか理解すれば、一番自分の考えに近かったり、説得力のある候補が見つかるはずだ。まずは比較し、現実的に達成できる公約かどうか考えよう。
いくらいいことを言っていても、達成できなければ意味がない。具体性がありいつまでに何をすると示せる候補が最も信頼できるだろう。
これから2週間ほどニュースから目を離すことはできなさそうだ。公式サイトやTwitter、YouTubeなどもチェックして情報を入手しよう。
写真:Morio (CC BY-SA 3.0)
2 thoughts on “都知事選特集:6月17日の共同記者会見”