著・大山礼子『政治を再建する、いくつかの方法』

本についての説明
タイトル:『政治を再建する、いくつかの方法 政治制度から考える』

著者:大山礼子(おおやま れいこ)

プロフィール:

  • 駒澤大学法学部教授
  • 一橋大学大学院出身、国立国会図書館・聖学院大学助教授などを歴任
  • 専門分野:政治制度論
  • 主な著書:『国会入門・第2版』『比較議会政治論』『日本の国会』『フランスの政治制度・改訂版』他

内容

日本の政治がおかしい、政策決定がうまくいかない。
多くの有権者が感じている。原因は、何か。

米大統領よりも強い首相の政治的パワー、
対決一辺倒で建設的でない国会、
落としたい人を落とせない選挙の仕組み。

日本の「政治制度」が抱える「構造問題」に迫り、
具体的な解決策を探る。
政治をあきらめない人、必読の書。

感想・理解

現在の日本の政治システムを他国と比較しながら説明する、いわば解説本。

わかりやすい内容に比較を加えたことで、理解度が増す。首相の権限、国会審議、議員、選挙制度、そして権力の監視 (oversight)について言及。

地方政治から国会まで、幅広く扱う入門には適している書物。

国民が興味を持つには様々な工夫を施す必要があることを実感した。同時に、内閣や政治に対する信頼はある程度あることもわかった

問題はやはりそのシステムに属する人間、つまり政治家の質である。近年スキャンダルが多い政治家という職種につく人間に信頼を寄せろと言う方がおかしい話だ。

ここからは読んでいてなるほどと思ったり、興味深いと思ったポイントを紹介する。

ポイント①:事前審査

簡単に言うと、事前審査というのは国会提出前に議案を党内で取りまとめることだ。これにより、過半数を保持する与党は法案を通すことができる。言い換えれば、党内で一致した法案しか国会に提出されない。

現在、派閥などが弱体化していって、首相(党のリーダー)と執行部(幹部)に従う議員が多い。そのため、首相は簡単に全会一致を得ることができる。

しかし万が一参議院が野党に取られた場合、ねじれ国会ができ、法案が通らなくなる。こうなると事前審査がいくらおこなわれても意味がない。なぜなら野党は事前審査に加わっていないからだ。

この制度の大きな欠点は、事前に与党内で調整がおこなわれてしまっていることだ。国会に提出される議案はまず、委員会を通ってから本会議で議論される。他国の議院内閣制度では委員会で与野党の調整がおこなわれ、本会議で対立・論戦が起きる。

日本では党内で調整が済んでしまっている以上、委員会ではすでに与野党の対立・論戦が始まっており、本会議はあまり意味を持たない。実際、本会議での法案審議の時間は1国会につきわずか1時間ほどとされている。

ではなぜこのシステムが誕生したのか。それは「内閣の弱さ」にある。筆者曰く、内閣は自ら提出した法案を修正する権限を持っていない。つまり、衆参両院のどちらかで修正が加えられても手出しができず、妥協案を出せないのだ。

この不確定さを未然に解消するために党内で事前審査をする制度が作られた。与党内で全会一致し、なおかつ党議拘束(必ず法案に賛成するようルール化)をかければ、法案は通る(与党は過半数を保持)。

しかしそうすると、国会審議は意味がなくなる。あらかじめ方針が決まっていて、反対が許されない与党議員は頑なに法案を通そうとする。そうなれば議論の余地がなくなり、自然と与党対野党の構図ができあがってしまう。

これでは国会は議論の場ではなく、どれだけ議席を獲得して法案を強引にでも通せるかという椅子取りゲームのような場になってしまう。

ポイント②:会期

会期とは議会が活動している時期のこと。国会の会期は世界に比べるとかなり短い。だいたい5ヶ月間(150日~)程度で、臨時国会を含めても200日前後だ。ほぼ年中無休で国会がないのは日本だけと言っても良い。

日本特有の制度といえば「会期終了と同時に廃案」というものだ。会期を終えて審議途中の案件は継続審議の手続きを取らなければ自動的に廃案となる。

これにより、国会会期末は活発になる。与党は廃案を阻止するために審議を早めに切り上げて「強行採決」、つまり強引に法案を通そうとする。野党は阻止したい一心で廃案に持ち込もうとする。

しかしこれでは目的が法案を通すことになってしまい、十分な議論がおこなわれない可能性が出てくる。

ではなぜ自動的に廃案になる制度を使っているのか。それは会期制度の歴史を見ればわかる。会期はもともと国王が議題を議論するために国会を招集するものだった。

つまり、ひとつの議題を議論するために招集と解散を繰り返す制度だ。この制度上、継続して次の会期で審議する必要性はない(ひとつの議題を解決すれば解散する)。

短い会期は議論を切り上げ、マイナスの方が多いように思える。それでも変わらないのはなぜか。それは与野党にとってそれなりのメリットがあるからだろう。

与党は強行採決をできないと通せる法案も通せなくなる懸念がある。いつまでも継続されても困るのだ。逆に野党は気に入らない法案を廃案に持ち込めなくなるため、切り札を失うことになる。どちらも会期が短い方が一定の得をするのだ。

ポイント③:信頼されない政治家

なぜ国民は政治家を信頼しないのか。理由は大きく分けて3つある

  • 政治家を遠く感じる
  • 議員の選ばれ方
  • 選挙制度

まず1つ目は、政治家の活動について知らないことが多いという点だ。

メディアが連日報じるのはスキャンダルや党内の権力争いばかり。審議が報じられても結局は政権の不祥事などを追求する図などが取り上げられる。これでは信頼するも何も、政治家は悪いというイメージしか浮かばない。

加えて審議内容・経過についても知られていないことが多い。これではいくらちゃんとした議論がされていても国民に気づかれることはない。

さらに日本の政治家は定額の活動費の残額をもらうことができ、使い道も決まっていない。対してアメリカは実費弁償方式を採用し、領収書などが公開される。

つまりアメリカは使ったぶんだけ支払われるが、使い道を公開する必要がある。

お金の使い方一つで信頼度は変わると思う。

2つ目は議員の選ばれ方。

日本は世襲議員、つまり親などの親族から地盤を引き継ぐ者2割程度いる。自民党だけに限れば、その率は3割に上がる。諸外国は平均で1割程度とされ、日本はその倍の世襲議員がいる。

驚くのはこの点ではない。

閣僚(大臣)に限れば、日本は約半数が世襲議員とされる。総理大臣も、安倍総理をはじめ、多くが世襲議員である。

世襲議員に対する批判を受け、各党は公募制を始めた。公募制では「一般」から議員を目指すことができる。この制度にも欠点はある。選挙で勝ちたいがために公募で選ばれる候補は限られ、結果的に似たような人が多く選出される

筆者によれば、高学歴、できれば留学経験、そして若いという条件がそろわなければ選ばれないという。さらに、選挙では組織・団体票が大切になるため、地域団体の役員などの50代以上の人が候補として選ばれやすい

3つ目は選挙制度。誰もが当選できる制度でないのが、信頼されない大きな要因。

1につながることだが、戸別訪問(有権者の自宅を候補者が訪ねること)の禁止やインターネット選挙の厳しい規制などにより政治家を身近に感じない人は少なくない。

さらに、世襲などが多く、いわゆる「一般人」が少ないことも身近に感じない理由の一つと言える。

「一般人」が当選しづらい大きな理由は選挙期間の短さだ。日本は事前の選挙運動が違法で、期間は衆議院が12日、参議院・知事は17日と決まっている。ただ、政治活動と選挙活動はグレーゾーンが存在するため、違反せずに活動をすることもできる。

しかし、わずか十数日で新人が有権者に顔・名前・政策を覚えてもらうのは難しい。現職の議員は知られている分、すでにアドバンテージがある。加えて、選挙期間前に議員は地元で「選挙活動」を政治活動としておこなえるため、事実上選挙活動期間が新人・一般人より長い(一般人が活動すれば違法)。

また、選挙に出るにはお金がかかり、仕事をしながら立候補することは難しい。公務員に至っては現職をやめてからでなければ立候補することが許されない(都知事選の小野泰輔候補のように)。

これではあまりにもリスクが大きい。アメリカの大統領選を見てわかるが、現職の上院議員は議員を辞めなくても立候補できる。負ければ今のまま議員を続けることができる。日本ではそれができないので、新人は大きなリスクを背負う。

ポイント④:政治とカネ

政党助成金は政治資金を規制するためにつくられた制度だが、政党と社会のつながりを弱くし、お金を簡単にもらえるという意味でイメージダウンにも繋がっている。

使い道もほとんどが政治家への援助で、調査費(政策研究)に使われる資金は少ない。これでは政策の向上よりも現状維持(議席確保)に重点が置かれてしまう

他国のように政党の研究所(シンクタンク)設立や候補者の多様化を進めるために使い道を限定することを検討するべきだ。

また、1994年の政党助成法はいずれ、企業・団体からの献金をなくすことが約束されていた。しかし、抜け道の多さからこれは実現していない。

現在の政治資金規正法は以下の規定がある

  • 企業・団体の献金は党にしかできず、政治家本人や政治家の政治資金団体にはできない
  • 企業は資本金に応じて年間750万~1億円寄付でき、年間5万円以上は報告書に記載する必要がある

一見透明性があるように思えるが、抜け道は存在する。

各地域に存在する政党支部は地域の企業・団体からの献金を政治家の代わりに受け取る役割を担っている。一度政党に寄付されたお金を支部に回し、議員活動などに使うことができる。

また、5万円以上は報告書に記載せねばならないルールも、政治家が主催する資金パーティーの参加券ならば20万円まで記載せずにすむなどの抜け道がある(企業は年間150万円分購入できる)。

印象に残った一文

「政治参加で世の中が変わるという意識を育てるために、政治教育が果たす役割は大きい。」(第5章、226ページより)

若者は自分の一票で世の中が変わると思っていない。その意識を変えるには、ただ投票するよう促すのではなく、なぜそうするべきかを学校から教える必要があるようだ。

確かに、日本において政治は身近なものではない。大学などで政治関係を専攻していない生徒と政治について話すことはあまりないのかもしれない。少なくとも、アメリカのように、誰もが政治に関心を持っている様子はない。

投票率を上げるためにも、若者の参加は必要だ。まずは投票のコストを下げるところから始めるのがいいだろう。投票所を増やしたり、期日前投票を充実させたり、方法はいろいろある。

教育に関してはそう簡単に変わることはないだろうが、政治の授業を必須科目にするなど、日頃から政治に関われる環境をつくることが必要なのかもしれない。そして、ただ教えるのではなく、議論をし、自分で考えさせることも大事だろう。

写真:Kakidai (CC BY-SA 4.0)

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